「ママ、内緒にしていたことがあるの」
私は夕食のトマトシチューを作っている時だった。
タン太はキッチンの私の隣にピッタリと立って、そう言った。
「どうしたの?」
「ずっと言えなかった。でも言わなくちゃってずっと思っていた。
ママ、怒ると思う。でも怒られてもしかたがないんだ。」
「なんか、楽しそうな話じゃないねぇ」
「ママがインフルエンザの時、おばあちゃんの家で、手紙書いたんだ。
これ、後で読んで。」
「うん。料理終わったら、読むことにするよ」
うーん。なんだろう。タン太がずっと内緒にしていた悪いことって。
すごい悪い点数とった?
いや、そんな事じゃ手紙まで書かないか。
じゃあ、なんだろうな。
想像がつかない。
フライパンで焼き目をつけたチキンをトマトシチューの中に入れ、弱火でコトコトと煮込む。
手を拭いてリビングのタン太の向かいの椅子に座る。
テーブルの上には手紙が置いてある。
「これ…」
「じゃあ、読むね」
なんか、物騒だなあ…
反省文
ぼくはママにずっと隠している事があります。
それはパパやママがいない時に、学校のタブレットでYouTubeをみていた事です。
ぼくは、受験中ずっとこの事を隠してきました。
これは本当に悪い事です。でもぼくの言い訳も聞いてくれたらいいなと思いこの手紙を書きました。ぜひ読んでみて下さい。
そしてぼくが反省していることをわかるといいです。
悪いことというのは、YouTubeを見ていたことか。ちょっとホッとした。
ぼくは、受験をする前すごく勉強が嫌いでした。
受験をすることになり、友達とも遊べず、かなりストレスがたまりました。
なので、ぼくは悪い事をしてしまいました。
こっそりYouTubeをみて、ストレスがたまらないようにしていたのです。
ママはこっそりが嫌いです。悪い事をするなら堂々とすれといつも言います。
だからぼくは、自分からママにいいました。
このことは全部怒っていいです。
でも2つだけ怒ってほしくないことがあります。
一つは、自分からママに言ったこと。
二つ目は、自分の意志で悪い事をやめました。
ぼくは今まで悪いことをしてきました。
ぼく自身もYouTubeを見たあと、つらかったです。苦しかったです。
なので、ぼくはもうこっそりYouTubeを見ないと決めました。
そして、成功しました。こっそりとYouTube(=タバコ)をやめたのです
それはぼくでもすごいことだと思いました。
そしてぼくは気づきました。
こっそりYouTubeを見るよりも、全部勉強を終わらせて見る方がはるかに気持ちいいことを。
ママ、すいませんでした。
タン太
「そうなんだ。受験の時、YouTube見ていたんだ。」
と、まず、一言目。 いや〜、全然知らなかったわ。
「うん。怒っても仕方がないんだ。ママこっそりは嫌いなの知っている。」
「うん。こそこそは嫌いだ。」
私が起きるより早く起き、寒いリビングで勉強していたタン太。
私が仕事から帰ると、一人机に向かって勉強していたタン太。
友達と遊ぶことも受かるまではと我慢し、土日祝日もなかったタン太。
受験を決めたのは、6年生の4月、遅いスタートだった。
「友達とも遊ばなくていい。どこも行かなくていい。中高一貫校に行きたい。受かるまで頑張る」とタン太は自分で受験を決意した。
正直、どう言っていいのかわからなかった。
手紙を読んで、タン太の気持ちがすごくわかった。
受験勉強がすごくはかどっていたわけじゃない。
模試の成績もなかなか上がらなかった。
あの時、「見てもいい?」と言われたら、
塾の予想問題を完璧にしなさいって言ったに違いない。
タン太もそれを知っているから、こっそり見るしかなかったんだろうな。
受験はキツかった。
親子ともども、キツかったな。
でも、タン太は頑張った。
十分頑張った。知っている。
これから、少しずつ、大人になって、少しずつ親のもとから離れていくんだろうな。
母親に言えない事なんて、たくさんでてくるよね。
むしろ、言えない事の方が多くなるかもしれないね。
なんだか、そんな第一歩だったようで、少し寂しかった。
ただ、タン太の頭を、ポンポンってした。
何も言わずに。
そして、トマトシチュー作りに戻った。
関連記事
応援してくれたら嬉しいです。
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメント励みになります!