中学校生活、1週間。
毎朝続いた「制服がうまく着られない騒動」も、どうにか落ち着いてきた。
ワイシャツのボタンがキツくてはまらないだの、ネクタイができないだの、ベルトが通せないだのと、ムシャクシャしながら、捻れ、よじれて、さらに大変なことになっていたタン太であったが、慣れてきたようである。
本当に着るのに30分かかっていたからね。
トレーナー、パンツでズック靴の少年時代から、ブレザーの制服を爽やかに着こなす青年に少し近づいたわけだ。
頼もしくもあり、寂しくもある。
タン太は、休み時間はいつも、一人で図書館に行っているとのこと。
入学してまだ数日、休み時間にいつも一人で図書館? 大丈夫だろうか…
少し気になってしまう、たんたぬ。
「どうして、図書館好きなの?」
「だって本が読みたいんだもの。そしてね、ソファーがあるんだ。
小学校とは違うんだよ。
静かで、ふわふわのソファーがあって、本が読めて、これで飲み物があったら最高なんだけど。
でも、飲食は禁止なんだ。残念だね」
さすが、中高一貫キラキラ学園。リッチな図書室があるのだ。
「ハハハ。そりゃ、ざんねん。面白い本、見つけた?」
「うん。バッテリーって本が面白くて、今ハマっているんだ。
でも僕は巧みたいなカッコつけ嫌だな」
あさのあつこのバッテリーか。
主人公巧は、天性の才能を持つピッチャー。
自分にも人にも厳しい。その厳しさが人を傷つけ、自分も傷つける。
母親似の端正な顔立ちに、煌めく才能。鍛え上げられた細いしなやかな体から、ストレートの豪速球。「おれの球だけを見ろよ」か。
なんともカッコよく描かれている。
その速球を受け止めるのはキャッチャーの豪。
人を受け入れる懐の大きさを持ちながらも、巧の才能と鋭さに戸惑う。
巧と豪、この対比がたまらない。
ちょうど、今のタン太くらいの年齢の少年たち(小学校を卒業した春休みから中学生時代)を描いている作品だ。
「ハハ。ママも巧は、カッコ良すぎと思うね。」
「じゃあ、誰が好き?」
「そうだなあ。巧のじいちゃん、なんていいな」
「お!ママ、シブいとこついてるね。
僕は青波かな、まだ1巻だけど。 かわいいからね」
また、本話で盛り上がってしまっていた。
「学食で、カツ丼が食べてみたいんだけど、いい?」
「いいよ。カツ丼かあ、いいなあ」
「とっても美味しそうなんだ。来週行ってみるね!」
心配しなくとも、タン太は一人行動を楽しんでいるらしい。
私もふらっと一人旅を楽しむような気性であるが、似てるのか?
「僕にね、すごく、ちょっかいかけてくる奴がいるんだ。
つついたりね、GWT(グループワークトレーニング)の時とか、消しゴムのクズを僕のノートの上に乗っけてくるの。ほっといて欲しいのに」
「もしかして、その子、タン太と友達になりたいんじゃないの?」
「じゃあ、嫌なことしなければいいのに」
「きっかけが欲しくて、絡んでいるとか」
「でも、僕、そんなはっきりと言わない人、嫌いだな。
友だちになろう!って言えばいいのに。」
「まあ、そう言わずに…。最初は最悪でも、後でいい友だちになることだってあるよ。
ママも昔、初めて会った子と、ものすごい大喧嘩した。
でもその後、その子とめちゃくちゃ親友になったんだよ。」
それは私が小学生の頃の話だ。
水泳部だった私は顧問の先生が来るまで、屋外プールで練習メニューをこなしていた。
そこにいたのが、もう一人、渡部(仮名)
課せられたハードなメニューを、ひたすらに泳ぎまくる、2人。
その瞬間、ものすごい取っ組み合いの喧嘩がはじまった。
他でもない、小学生女子、私と渡部だ。
陸上でも喧嘩は苦しいが、水中はさらに苦しい。
水底で、羽交締めにされる。息ができない。しかし同時に相手も酸素が必要だ。
水面に上がる。チャンスだ、息ができる! 反撃だ!
沈め、沈められ、抑え、抑えられ、酸素を求め水面へ脱出!
毎日何kmも体の限界まで泳ぐトレーニングを積んでいるため、私たちの肺活量、腕力、体力は相当なものだ。(特に渡部は強化選手だった)
そんな2人が水中で本気の喧嘩をした。
凄まじい取っ組み合い。息はできない、水を飲む、お互い鼻血が流れている、ものすごい死闘だった。
なぜそんな喧嘩になったのか、 …覚えていない。
そして、どうしてその後、一番の仲良しになったのか、 …覚えていない。
水中での喧嘩で、「やけに強いやつに会ってしまった」と思ったことだけは、覚えている。
そんな喧嘩、今の子は、誰もしないよね。
ってか、昔も女の子はしないか。
渡部、どうしているだろう。
小学校を卒業した後、転校してからわからない。
昔の話だね。
やっぱ友だちっていいよね。
私、あんまり友だちいないんだ。
そして、この歳になると、ああいう友だちってもう、できないね…。
タン太は中高一貫だから、6年間一緒だ。
よき友は財産だ、
…と思う、たんたぬだった。
応援してくれたら嬉しいです。
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